防錆(ぼうせい)剤【第215話】

錆(さび)を防ぐ「防錆剤(ぼうせいざい)」がある。

もし人間の頭にも、
防錆剤が使えたらどうなるだろうか。

1998年の私は、
そんな奇妙な想像から、
固くなった頭や錆びついた考えを柔らかくする
「脳細胞の補修剤」
を思い描いています。

固くなった頭を柔らかくする「防錆剤」

防錆(ぼうせい)剤というものがある。

錆(さび)を防ぐものである。
錆ついてしまった物でも、
吹きつけることで、
それ以上錆びないようにしたり、
錆を取ったりもする。

機械などに使うものであるが、
脳細胞に使えたらいいな、
と思う。

頭の固い連中にシュッと一吹き。

錆ついた頭の脳細胞­が蘇(よみがえ)る。

他人だけでなく、
自分も錆ついてきたな、
と感じたらシュッと一吹きする。

頭すっきり、
脳の回路がショートせずに回転は速くなる。

またカビ取り剤というものがあって、
カビ臭くなってきた脳細胞に、
泡を吹きかけて暫­(しばら)く置いておく。

最後に水洗いをして、
カビ取り剤を洗い流す。

脳細胞のヌルヌル、ヌメヌメ感がとれて、
新品のようになり、
表面を触るとキュッ、キュッという音までする。

可塑剤という、
物質を柔らかくするものもある。

固い彼女の脳細胞に可塑剤を擦り込み、
もっと開放的にしてしまったりして。

脳細胞の補修剤が、
店頭で山積みされていたらさぞ面白いだろう。

これもご多分にもれず、
価格競争で安くなっているのだ。

すでにみんな使い飽きていたりして。

それでも生産者は売らなければならない。

そこで、
もう見飽きた二個パックや、
何の工夫も知恵もない企画品を、
次から次へと出してくる。

買物に行って、
つい衝動買いしてしまったりして。

会社の社員旅行などで温泉にでもいけば、
上司と温泉に入る機会もあるだろう。

そのときに、
上司の脳細胞を良く洗ってカビをとり、
防錆剤をスプレーして仕上げたりする。

背中を洗ってやって、
そのときに可塑剤を擦り込んで、
頭を柔らかくしてしまったりする。

錆ついた頭、
カビの生えた頭、
カチンカチンの固い頭。

いずれも脳硬化症候群である。

執筆日:1998/12/9(水)

編集後記

防錆剤から
脳細胞の「錆」を取る薬を想像してしまう。

第215話は、
そんな1998年の発想をそのまま文章にした一篇です。

仕事を長く続けていると、
考え方が固くなったり、
新しいものを受け入れにくくなったりすることがあります。

28年後の今、
この文章を読み返すと、
「頭を柔らかくしておくこと」
は今でも大切だと思います。

そして何より、
こんな馬鹿げた想像を文章にしてしまう自由さこそ、
当時の自分が大切にしていたものだったのかもしれません。

👉次回記事「第216話」はこちら
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