売りと買い【第150話】

「売る仕事」と「買う仕事」。

正反対に見える二つの仕事ですが、
その本質は意外にも共通しています。

第150話は、
営業と購買の両方を経験したからこそ見えてきた、
人との信頼や仕事への向き合い方について綴った一篇です。

売る力も、買う力も、人との信頼から生まれる

私は、
国内と海外の営業を各々9年、
合計18年やった。

国内営業には訪問販売の2年が含まれている。

そして購買業務を約7年やり、
現在に至っている。

売りと買い、
という対極する仕事に従事してきたわけだ。

まったく逆のような感じを受けるが、
それらの仕事に対峙する心構えは、
非常によく似ている。

要するに、
両方とも人間同士の商売であるから、
心構えは同じといえば、
なるほど、と頷­(うなづ)けるだろう。

最も適当と思われる言葉がみつからないので、
­敢­えて営業センスといわせていただく。

売りも買いも営業センスがないとうまくいかない。

これは、
両方を経験してみた実感だ。

人によりけりだとは思うが、
私は物を売ったときに味わう醍醐味の方が、
物を安く仕入れたときよりも大きい気がする。

それはたぶん、
売買行為で物を売ったときにいただく
入金というプラス発生、
物を買ったときの
出金というマイナス発生からくる、
差に由来するのだろう。

もちろん仕入れた物は加工したりして
再び売るのだが、
すぐ現金にはならないからなのだろう。

物の売買にも極意があるようで、
その類(たぐい)であれば書店に書物は山とある。

売る極意を書いた本が圧倒的に多く、
さまざまなテクニック、
心構えが記されている。

実際には、
ほとんどそんな本は役に立たない。

なぜなら訪問販売などで断られたときに、
対処する幾万とある言葉が、
一冊の本に記されているわけはないし、
記せるはずもない。

実践の積み重ねしかない。

いわゆる場数を踏む、
ということだ。

人生のトラブル対処と同じだ。

それでも多少の役には立つだろうと思い、
皆読もうとするのだ。

私の書くことは、
売りにつながることだ。

読むことは、
買いにつながることだ。

やはり私は売りに醍醐味を覚える者である。

執筆日:1998/10/05(月)

編集後記

仕事にはさまざまな技術があります。

しかし最後に人を動かすのは、
知識だけではなく、
相手との信頼関係なのだと感じます。

この考えは、
今でも変わらない仕事の基本ではないでしょうか。

👉第151話はこちら
動機の分析(1)|人生には、まだ三十年あると思えた日