タクシーという仕事は、
一見すると自由に見える。
しかしその裏側には、
景気や社会の影響を
強く受ける現実がある。
ある日の出来事から、
その現実を垣間見ることになった。
景気に左右される働き方とは
昨日、取引先の通夜に東京から出かけた。
二時間後、
下車駅でタクシーに乗った。
斎場の名を告げると、
運転手は場所がわからないという。
取引先から、
タクシーならわかりますから、
といわれて来たのだが。
「実は私、今日で三日目なので
まったくわからないんです。
大阪から出てきたもんで、
このあたりは地理不案内で、……」
悪びれた様子もなく言う。
たまたま持ってきた、
ファックスでもらった地図を
運転手に渡したら
「まあ、何とか行ってみましょう」
と何とも心もとない。
「分からなくなったら、
途中で聞きながら行けばいいよ」
と、私も気楽に返事をした。
四十代後半くらいの新米運転手曰(いわ)く。
「まだ、三日目で慣れてないから、
水揚げも少なくて、
これじゃあ商売になりませんよ」
一日の水揚げは、
約3万円だという。
月に12日から15日の乗車勤務で、
36万円から45万円の水揚げになる。
その半分くらいにあたる18万円から
22~23が税込み給料になり、
手取りはさらに低くなるそうだ。
現在、大卒の初任給でさえ20万円前後だ。
働き盛りの男性が、
そんな給料では家族を養ってゆけないだろう。
かなり昔、タクシー運転手は、
一般のサラリーマンより、
実入りが良い仕事のように思われていた時代もあった。
そして自由があるようにも思われている。
たしかに良かったのかもしれない。
しかし不景気の昨今、かなり厳しいようだ。
帰りに再び斎場からタクシーを拾った。
今度はベテランの運転手だったが、
やはり近頃水揚げは少ないという。
日に2、3万だそうだ。
新米運転手のほうが多いではないか、
と思った。
しかし、いずれにしても低すぎる。
もう「劇的な景気回復」でも望むしかない。
執筆日:1998/06/13(土)
編集後記
景気というものは、
数字やニュースだけではなく、
日々の仕事の中に如実に表れているのだと感じます。
一見すると自由に見える働き方も、
その実態は決して楽なものではありません。
どの仕事であっても、
時代や社会の流れから
完全に自由でいることは難しいのかもしれません。
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