人はなぜ音楽に救われるのか【第70話】

たった一曲の音楽が、
人生の記憶を呼び起こすことがある。

音楽とは、
単なる娯楽ではなく、
その人の人生そのものなのかもしれない。

「朝日のあたる家」が呼び起こした人生の記憶

もうかれこれ30年以上も前になる。

『朝日のあたる家』は、
イギリスのリズム安堵(あんど)ブルース
(リズムがあって、安堵感のあるブルース・私の造語)
のグループ、
アニマルズが世界的に流行させた曲である。

人生の中で、
自分に最も感銘を与えた歌は何か
と訊­(き)かれたら、
迷わずに挙げる歌のひとつである。

私が中学、高校、大学と、
バンド活動をしていたころ、
盛んに歌った曲でもある。

この曲を歌っていると、
なぜか涙が出てくる。

旋律もさることながら、
電気オルガンの奏でる物悲しさは、
原曲の何たるかを物語っている。

さすが当時全盛を誇ったバンドだったのだ、
といまさらのように思う。

私は詩の内容を詳しくは知らない。

耳に入った単語を自己流で解釈し、
エリックバードンのボーカルを
全身で受けとめるようにして聴いた。

そうすると自然に、
むかし日本でもよく見られた家族の姿
が浮かんでくる。

のんだくれの父親がいて、
いつも母親と­喧­嘩­をしている。

母親が少ない家計費の中からやりくりして、
子供のために貯えた金を
父親が博打(ばくち)­、酒代に使ってしまう。

家の中ではいつも罵­声(ばせい)が飛び交って、
疲れて眠りにつくまでは落ち着かない。

そんな、
貧しくてどうしようもなかった生活。

それでも皆
逞(たくま)しく生きていた。

それでもなぜか明日を信じることができた。

そんな時代を彷彿(ほうふつ)させて、
涙が出たのかもしれない。

今はたしかに物質は(豊かとは言わない)
­溢(あふ)れている。

反比例するように、
一人一人の火花は見えなくなってきている。

自分が火花を散らすものを探そうともしない。

私は火花を散らせるものに出会ったようだ。

火花をより大きく散らすために、
千日の準備期間が与えられている。

執筆日:1998/07/17(金)

編集後記

人には、
人生を変える一曲があります。

それは時代を超えて、
自分の中で生き続ける。

音楽の力とは、
そういうものなのかもしれません。

👉第71話はこちら
ビートルズはなぜ人生を変えたのか|独立心という“直球”を受け取った日々