早朝の通勤電車に何を見るのか【第68話】

まだ街が完全には目覚めていない時間。

それでも、
多くの人が静かに動き始めている。

早朝の空気には、
昼間とは違う人生の表情がある。

都会で生きるサラリーマンたちの静かな朝

今日は久し振りに早朝出勤をした。

外国の顧客を研究所へ案内するためだ。

私は品川のホテルに、
午前7時までに行かなくてはならないので、
5時20分には家を出る必要があった。

つまり、
朝の4時半には起床しなければならなかった。

バスの始発は6時だ。

歩くか、自転車で
駅まで辿り着かなくてはならない。

東京近郊に住む
中堅サラリーマンの典型的な姿だろう。

自転車で行った。

初夏とはいえ、
雲っているとそれほど明るくはない。

しかし想像以上に人がいる。

歩いている人、
自転車に乗っている人、
みな会社勤めの人たちだ。

中年が多い。
若い人の率は少ない。

また、
ウォーキング道路でも中年の男女が歩いている。

犬に散歩をさせる人。
ジョギングをする人。
様々な人たちが、
意外にも早朝から活動をしている。

若い人はほんとうに少ない。

駅に着く。
滑り込んできた電車を覗くと、
まさかこの時間で座れないことはないだろう、
と思っていた確信が脆(もろ)くも崩れた。

満員とはいかないまでも、
座る場所はない。

新聞はなんとか広げて読める。
せめてもの救いか。

都心に入り、
山手線に乗るころは、
すべてが目覚め、
都会は膨大な人を呑み込み始めている。

私は早朝の、
一部の人が眠気まなこをこすりながら
動き始めたころが好きだ。

特に冬の寒い朝、
霜で凍らせたフロントガラスの隅に、
まだ解け切らない白いものを残したまま、
起き抜けの足取りのように
ゆっくりとタイヤを回している車。

中では鼻を赤くした、
ぼんやりした表情の男が
ハンドルを握っている。

そんな風景が好きだ。

その傍(かたわ)らを私が自転車で通る。

互いの人生が、
全く関係のない人生が、
早朝の寒気を通して微(かす)かに感じられる一瞬
のような気がして。

執筆日:1998/07/15(水)

編集後記

何気ない朝の風景にも、
それぞれの人生があります。

忙しい毎日の中で、
そんな一瞬に気づける心を、
失いたくないと思いました。

👉第69話はこちら
なぜサラリーマンは眠いのか|睡眠不足と情熱の間で揺れる毎日